2024.07.02 05:30
子育て
被告の父親
事件の約10年前から娘を叱ることができなくなった。
2024.07.01 08:05
水辺へ馬を
ことわざ英国
You may lead a horse to the water, but you can't make him drink.
2024.06.30 08:36
アランブラ宮の壁の
岸田衿子
アランブラ宮の壁の
いりくんだつるくさのように
わたしは迷うことが好きだ
出口から入って入り口をさがすことも
2024.06.29 02:55
人間失格
太宰治
たとえば、牛が草原でおっとりした形で寝ていて、突如、尻尾でピシッと腹の虻(あぶ)を打ち殺すみたいに、不意に人間のおそろしい正体を、怒りに依って暴露する様子を見て、自分はいつも髪の逆立つほどの戦慄を覚え、この本性もまた人間の生きて行く資格の一つなのかも知れないと思えば、ほとんど自分に絶望を感じるのでした。
2024.06.28 07:27
小市民
芥川龍之介
人生は一箱のマッチに似ている。重大に扱うのはばかばかしい。重大に扱わなければ危険である。
2024.06.27 07:39
豚もおだてりゃ
後悔日誌
昨日の看護師からの電話、「明日退院される男性の患者さんがいます。認知症が重く退院後が心配です。奥さんも重い認知症なんです。なんとかなりませんか。市に相談しても、司法書士の先生に相談してもお手上げです」。「そりゃ後見制度を利用なさるのがいいでしょうね。しかしなぜ私に電話を?」「先生がお忙しいのは重々分かっております。しかし退院を前にして、今日は絶対に5時までには先生に電話しようと心に決めておりました。四方八方相談いたしましたが、うまくいきません。とあるケアマネの知りあいから、先生に担当してもらって大変助かった。あの先生はボランティアで仕事をなさっている。仲間内でも評判だと教えてもらった」。
面談の予約を受けてしまった。事務所内でボランティアじゃないんだからと日々叱責を受けながら。
2024.06.25 08:22
自由
マイク・タイソン
Real freedom is having nothing. I was freer when I didn't have a cent.
2024.06.23 04:30
さらばフロイト
ラマチャンドラン
いまから50年以上前、とある中年女性が、鋭い診断力で世界的に有名だった神経科医のカート・ゴールドスタインの診療室にやってきた。女性は正常にみえたし、話し方もなめらかだった。おかしいところはどこにもなかった。だがこの女性は、異様な訴えをした。ときどき左手が喉もとをつかんで、自分を絞め殺そうとするというのだ。右手で左手を無理やりつかんで下に引きずりおろさなくてはならないことがよくあるという。ときには危険な左手が、あまりに一途に自分の命を絶とうとするので、手の上に座って押さえこんでいなくてはならなかった。彼女の主治医は、無理もないことだが、情緒障害かヒステリーだろうと判断して、数人の精神科医にまわした。ところがだれも役に立たず、最後にむずかしい症例を診断するという評判のゴールドスタイン博士のもとに送られてきたというわけだった。
ゴールドスタインは診察をして、この患者が精神異常でも情緒障害でもヒステリーでもないことをはっきりと確信した。麻痺や反射の亢進など、明確な神経系の異常もなかった。しかし彼はすぐに、この患者の行動を説明できる事実を思いついた。この女性には、あなたや私と同じように、二つの大脳半球があり、それぞれがちがう精神的能力のために特殊化し、また反対側の半身の運動を支配している。二つの半球は脳梁と呼ばれる繊維の束でつながっており、ここを通して互いに連絡し「同調」を保っている。しかしこの女性は普通の人とはちがって、(左手を支配している)右半球が潜在的な自殺傾向――自分を殺そうとする本物の強い衝動――をもっているらしい。おそらくこうした衝動はもとからあったのだが、脳梁を通して送られてくる、より合理的な左半球の抑制的なメッセージ(つまりはブレーキ)によって、抑えられているのだろう。ところがその脳梁に卒中(血管が詰まる又は破れる)が起こった、とゴールドスタインは推測した。脳梁に損傷があると、左右の脳の連絡は絶たれ、左脳が右脳を抑制できなくなる。そして右脳と、右脳が支配している危険な左手が解放され、自分を絞め殺そうとすることができるようになった、いう推測である。
ゴールドスタインはこの診断にたどりついたとき、きっとSFの世界のようだと感じたにちがいない。しかし女性が、診断を受けてからしばらくして急死したあと(原因はおそらく二度目の卒中発作のためで、自分を絞め殺したのではない)、死後解剖が行われ、ゴールドスタインがにらんだとおりだったことが確認された。脳梁に大規模な卒中が起こっており、左脳が右脳と「会話」をすることも、右脳に通常の影響力を行使することもできなくなっていたのだ。
2024.06.22 09:49
灰色の瞳
ティト・ベリス
枯野に咲いた小さな花のように
なんて淋しいこの夕暮れ
とどかない想いを抱いて
なんて淋しいこの夕暮れ
とどかない想いを抱いて
私の大事なこの笛のうたう唄を
あなたは聞いているのだろか
どこかの小さな木の下で
あなたは聞いているのだろか
どこかの小さな木の下で
澄んだ声色で響くこの笛
あなたは聞いているのだろか
泣きくたびれた笛の音を
あなたは聞いているのだろか
泣きくたびれた笛の音を
山は夕暮れ夜の闇がしのびよる
あなたは何処にいるのだろか
風の便りも今はとだえ
あなたは何処にいるのだろか
風の便りも今はとだえ
山の坂道一人で歩いて行った
あなたは今も唄っている
彼方の空に声が聞こえ
あなたは今も唄っている
彼方の空に声が聞こえ
一人ぼっちで影を見つめる
あなたは何処にいるのだろか
風の便りも今はとだえ
あなたは何処にいるのだろか
風の便りも今はとだえ
2024.06.20 08:05
愛の幻想(沢田夫人、35歳、神経症)
福島章
この患者は、初診時結婚後12年を経過しており、女の子もいるが、夫との性的関係の中で少しも快感が得られないばかりか、むしろそれに嫌悪と恐怖さえ感ずると訴えた。
夫人の回想によれば、それは彼女の少女時代の体験に由来する。外地で終戦を迎えた一家は苦労を重ねて日本にもどらねばならなかったが、その日本人たちを何度も外国兵が襲って掠奪や暴行をほしいままにした。ある白昼、外国兵が日本人の集団を襲い、一人の若い女教師を見つけだし、人々の見守る中で代わるがわる凌辱した。日本人たちが声もなく見守る中で、裸にされた真白い肉体は、外国兵の毛深く巨大な肉体の下におさえつけられ、飽くことなくもてあそばれた。それまで何日かをともに旅をして顔見知りの、優しくつつましい女教師の唇からは、この世のものとは思われぬ恐ろしい叫びがほとばしった。美しい犠牲者は何人もの男たちにくりかえしくりかえし辱しめられた。その光景と叫び声は、大人の胸に顔を埋めて恐怖にふるえていた少女の脳裏にも強く灼きついたのである。
「そんなことは、早く忘れたいと思うんです。でも、主人に抱かれると、私はいつもその女の先生が犯されていたときのことを思い出してしまうのです。そして、主人が外国の兵隊で、私がその女の先生のような気がしてしまうのです。だから、私には夜の生活が恐ろしいのです」と患者は述べる。小柄ながら華奢で上品な感じのするこの美人の夫は、東大出のエリート官僚であったが、身体はたしかに大柄で筋骨と体毛の発達がよく、一見して男性的な風格があった。だから、この夫人の連想もあながち不自然とはいえないと考えられるのではあるが、それならなぜ彼女は、よりによって彼女の「思い出」を刺激しやすいような男性を夫に選んだのかという疑問が浮かぶ。夫の方では、「妻が歓びを感じていないとは思えないのだが」と医師に、述べている。
このケースの病歴の示すものは、性行為における女性の「マゾヒズム的役割」に対する誤った同一化である。その基礎に強烈なインプリンティングが刻印され、そのあくことのない〈反復強迫〉が、夫人の訴えであると理解できよう。
夫人は少女時代の強烈な刻印体験のために、暴力と凌辱のイメージに固着し、愛のいとなみはその単なる反復なのだと言う。しかしもちろん、そこに不快と嫌悪だけがあると考えるのは早計で、犯され辱しめられる自分を幻想することによって、彼女はマゾヒズム的な快感を得ていることは疑いもない。彼女が一見して外国兵に似た風格の夫と結婚して夫婦生活を維持しているのはまさしくそのためであろう。あたかも衆人環視の中で犯された女教師のように、自分の夫婦生活を医師に報告する行為も、彼女のモデルへの〈同一化〉と〈反復〉と解せられる。