2024.08.17 18:06
新しい世界
平塚らいてう
猫又坂を下り、青田越しに向い側の森をのぞむと、朝などは遠方の竹林に白鷺がいくつも点々と、とまっていました。大塚の坂を下りながらの眺め、護国寺の赤い門、蒼い蒼い大空、雪の富士、黄葉した銀杏の大樹など――女学生時代の純な心に映った、通学の朝夕の自然の美しさ、その鮮やかさ、のびやかさは、おそらく生涯忘れ得ぬものでしょう。わたくしはこの道を、朝に夕に、新しい世界に生きるよろこびに胸を躍らせながら通いはじめたのでした。
元始、女性は実に太陽であった。真正の人であった。/今、女性は月である。他に依って生き、他の光によって輝く、病人のような蒼白い顔の月である。/さてここに『青鞜』は初声を上げた。/現代の日本の女性の頭脳と手によって始めて出来た『青鞜』は初声を上げた。/女性のなすことは今はただ嘲りの笑を招くばかりである。/私はよく知っている、嘲りの笑の下に隠れたる或ものを。
この記事へのコメント
コメントを書く